ウナギ目ウナギ科ウナギ属
鰻、Eel
生息域:本州以南から東アジア
旬時期:8月~12月
調理法:蒲焼、白焼き

ウナギ

基本情報

「江戸前」といえば今でこそ寿司や天ぷらの素材や調理法を指すことが多いが、もとはといえばウナギに対して使われる言葉だった。江戸時代の東京湾は天然ウナギの宝庫で、隅田川の河口部と深川で獲れたものだけを「江戸前」と呼び、それ以外は「場違い」と呼んだ。縄文時代の貝塚からもウナギの骨が出土し、古来から日本人に愛されてきたウナギ。「万葉集」では大伴家持が「石麻呂に吾れ(われ)もの申す夏痩せによしといふものぞ むなぎ(鰻)とり召せ」と詠んだ歌が残されており、当時からウナギが滋養強壮に効果のある食材とされてきたことがわかる。江戸時代に学者・平賀源内の発案により「土用丑の日」としてウナギを売り出したことから、この日にウナギを食べるようになり、現代でも土用の前には値段が高騰し、輸入が増加する。そのウナギの食べ方といえば、なんといっても蒲焼である。関東では一旦蒸してから蒲焼にするが、関西では蒸さずに、直接たれをつけて焼く。蒸してから焼いたものは身がフンワリと柔らかく、直接焼いたものは、皮目がしっかりとして香ばしい。蒲焼の調理技術を習得するには「串打ち三年、割き五年、焼き一生」といわれる。

名前の由来

平安時代頃までは「むなぎ」の名前があった。これはウナギの胸びれの前腹面が黄色いこと(「胸黄」)に由来するというもの、形が棟木(むなぎ)に似ていることに由来するものという説がある。「ウナギ」と呼ばれるようになったのは12世以降とされる。近畿地方の方言では「まむし」と呼ぶ。落語の枕には、小料理屋の女将がウナギ料理を出したところ案外美味だったので「お内儀もうひとつくれ、おないぎ、おなぎ、うなぎ」と変化したという話がある。成長段階によって呼び名が変わり、稚魚を「しらす」、ウナギの形に変態したばかりのものを「くろめ」、30cm弱くらいの小ぶりのものを「めそ」という。

特徴

成魚は全長1m、最大で1.3mほどになる。体型は細長く、体の断面は円形である。眼が丸く口が大きい。体表は粘膜に覆われぬるぬるしているが、皮下に小さな鱗がある。背びれ、尾びれ、臀びれがつながって体の後半部に位置している。体色は背中側が黒や青緑色、灰褐色をしており、腹側は白い。えらだけでなく皮膚呼吸が可能。川の中流から下流、河口、湖などに生息するが、内湾にも見られる。一般に淡水魚として知られるが、海域で産卵孵化したウナギのレプトケファルス(稚魚)が黒潮に乗って北上し、晩秋から冬にかけて日本列島の河川をのぼる降河回遊という生態をとる。砂の中や岩の割れ目などを好み、日中はそこに潜んでいる。夜になると餌を求めて活発に動き出す夜行性で、甲殻類や小魚、水生昆虫などを捕食する。アナゴやハモ、ウツボなどと同様に、蛇行型といって蛇のように体をくねらせて波打たせることで泳ぐ。嗅覚が非常に鋭く、イヌと同等といわれる。

食材情報

ウナギといえば、なんといっても蒲焼である。江戸の落語では、屋台で蒲焼を焼く匂いで白めしを食べる話があり、「ウナギは匂いを食わせる」といわれるほど、ウナギの脂と醤油、みりんが混ざった香りは、なんともいえない魔力がある。この蒲焼、関東では一旦蒸してから焼くが、関西では地焼きといって蒸さずに直に焼く。たれをつけずに素焼きした「白焼き」もあっさりとしてウナギの良さを味わうことのできる食べ方である。ウナギを開く際には、東京では背中から、関西では腹から包丁を入れる。ウナギはもともと、ぶつ切りにして食べられていたが、江戸で濃口醤油が使われるようになると、たれにつけて焼く現在の蒲焼が生まれた。上方、江戸ともに享保の頃からとされる。出前も行われており、冷めにくいように丼の温かいごはんの上に蒲焼を載せてフタをするうな丼やうな重が生まれた。一説によれば、江戸時代に芝居好きの大久保今助という人物が、感激中にウナギの蒲焼とごはんが別々に盛られていたのを、冷めないようにウナギ屋「大野屋」に頼み込んで、丼の上に乗せてもらったのがうな丼の発祥とされる。

土用の丑の日にウナギを食べるのは、江戸時代からの習慣である。夏にウナギが売れずにウナギ屋が困っていたところ、学者・平賀源内の発案によって「土用丑の日」と張り出したところ、飛ぶように売れ、夏バテ対策として土用の丑の日にウナギを食べることが普及した。これをもって、平賀源内がコピーライターのはしりとも評される。実際、ウナギはビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2などの栄養素を豊富に含み、滋養強壮に良いため、この習慣が広く受け入れられたのだろう。かつては、江戸前のウナギといえば利根川産であったが、最近は天然ものはわずか数%で、流通しているウナギのほとんどが養殖ものである。最近では韓国や台湾からの輸入が多い。

蒲焼のほかにも、様々な料理が各地で人気である。たれをつけずに焼いた白焼はあっさりとして、ワサビや大根おろしなどをつけて食べる。ウナギ屋でうな丼が出るまでに、白焼で一杯というのはこたえられない。ウナギ屋ではほかに、肝を吸い物に仕立てた「肝吸い」、数匹分の内臓を串に刺してたれにつけて焼いた「肝焼き」、焼いたウナギの切り身とキュウリなどを使った酢の物「うざく」、ウナギの蒲焼を芯にして卵で巻いた「う巻き」、背びれの部分を串に巻いて焼いた「ひれ巻」、数匹分のウナギの頭部を串に刺してタレにつけて焼いたかぶと焼きなどが提供されることが多い。大阪ではウナギを握り寿司に握ることも多い。また静岡では、茶を風味付けに使った「静岡焼き」、ウナギの白焼きとささがきゴボウを甘辛く煮た「ぼく煮」、これをごはんにかけた「ぼく飯」、滋賀県では蒲焼と米を竹の皮で包んで蒸した「鰻の飯蒸し」やすき焼き、名古屋では細切りにした蒲焼をおひつに盛ったごはんに乗せた「ひつまぶし」など、各地で独自の料理がある。またウナギパウダーを入れた菓子パイ「うなぎパイ」は浜松の銘菓として有名。

ヨーロッパでもウナギは好まれ、広く食用にされている。ぶつ切りにしたウナギをスープで煮込み、冷やし固めたジェリード・イール(ウナギの煮こごり)や、ぶつ切りにしたウナギをパイに入れてマッシュポテトを添えたウナギパイは、イギリスの庶民の味である。またスペインでは、ウナギの稚魚であるシラスウナギのアヒ―ジョ(オイル煮)はバルなどでも人気のメニューである。ドイツではウナギの燻製やスープ(アールズッペ)、フランスではワインを使用して煮込んだマトロットがあり、また中国や韓国でも食べられている。イスラム教圏では、鱗のない魚は禁忌とされており、鱗が目立たないウナギを食べることはタブーとされている。

背と腹の色がくっきり分かれているもの、腹が太いものを選ぶ。天然ものは腹の色に黄色味がある。150g前後で、それ以上のものは大味になる。ウナギは尾を使って泳ぐので、水槽で泳がせているものでは、尾に傷がないものが新しい。(要確認)養殖ウナギと天然ウナギの見分け方として、一般的に胴回りが太く腹の色が黄色がかっているのが天然ウナギとされるが、実際には、天然ウナギは生息環境や餌によって色や模様が変化するため、見た目で識別することは難しい。

脂質20%を含むほか、タンパク質、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンD、ビタミンE、カルシウム、鉄分を豊富に含有する。特に、粘膜を強化し視覚を正常に保つビタミンAは100gの蒲焼きで2日分が摂れるほど豊富に含まれており、また肝にもビタミンAを豊富に含有する。「ウナギが目にいい」とされる所以である。さらに最近では、皮下に含まれるコラーゲンへの注目度が高まっている。コラーゲンは肌の張りはもちろん、粘膜を強化し、血管を柔軟にする働きがある。

市場での評価

ウナギの旬は養殖ウナギと天然ものでは違いが出る。養殖ものは冬に養殖池に入れたもので成長の早い「飛び」をよしとする。早いものでは半年ほどで出荷されるようになり、この「飛び」の出荷される初夏が養殖ものの旬である。天然ものは、餌を旺盛に食べる夏、産卵のために川を下る下りウナギの獲れる秋~冬が旬である。特に利根川の天然下りウナギは、値段も高価だが、産卵前に脂が乗って美味とされる。河川ではなく汽水域や外海に生息するウナギは、青ウナギと呼ばれ珍重される。特に岡山県児島湾の青ウナギが有名。

漁獲法

平成23年のウナギの国内供給量56,246トンの内、国内生産が22,006トン、輸入が34,011トンである。国内生産の内、ほとんどが養殖ものである。日本のウナギ養殖(養鰻)は、1879年に東京深川で、殖産家・服部倉治郎によって初めて試みられ、1897年に服部氏によって現在の浜松市西区で養鰻を始まった。後に日本の養鰻の中心地となる浜名湖の養殖ウナギのルーツである。温暖な気候や地下水などウナギの生育に適した環境があり、浜名湖や天竜川河口で稚魚であるシラスウナギが多く獲れたことによって、浜松の地で養鰻が盛んになったとされる。ウナギの人工孵化は、1973年に北海道大学で初めて成功し、2002年には三重県の水産総合研究センター養殖研究所(現「増養殖研究所」)が仔魚をシラスウナギに変態させることに世界で初めて成功した。しかし人工孵化はいまだに莫大なコストがかかり、完全養殖の商業化には至っていない。水産庁は、2020年までにウナギ完全養殖を商業化の軌道に乗せることを目標としている。

国内のウナギ生産量のほとんどが養殖ものとはいえ、天然ものへの人気は根強く、野生のウナギ(天然もの)の人気は根強く、釣りや延縄などで漁獲されている。また各地にウナギの伝統漁法があり、利根川下流で秋から冬にかけて行われるウナギかま漁は、利根川本流で上り下りしながら「かま」でウナギを獲る。ほかに、棒の先に鉤を付けたものを操ってウナギを引っ掛ける「ウナギ掻き」、積み上げた石の隙間に潜んだウナギを捕る「ウナギ塚」、竹筒などを生息域に仕掛け、筒の中に入ったウナギを捕る「ウナギ筒」などが伝えられている。遊漁としての釣りでは、ミミズなどを餌にするのが一般的である。ウナギは夜行性であるため、よく釣れる時間帯は日没後になる。餌釣りでの方法としては、ブッコミ、置き釣り、穴釣りなどがあり、特に置き釣りと穴釣りはウナギ釣りに独特の方法である。