ニシン目ニシン科コノシロ属
鰶、子代、Gizzard shad
生息域:北海道以南から日本各地
旬時期:7月~9月(シンコ、コハダ)、11月~2月(コノシロ)
調理法:酢締め(寿司)、塩焼き
基本情報
江戸前寿司を代表するネタのひとつであるコハダ。出世魚としてシンコ・コハダ・ナカズミ・コノシロと名前を変えて成長していく。それぞれ生態が異なり、漁期や旬も変わる。中でも、稚魚であるシンコは江戸前寿司の華である。関東地方では、初物のシンコにキロ数万円と極上マグロ顔負けの値段がつく。指の先ほどの大きさのシンコを握り一貫に2~3枚つけるのが普通だが、走りの時期には、8枚づけ、12枚づけなどと仕入れと技量を競い合う。身が小さなシンコをおろすのは手間のかかる仕事だが、一貫数百円が相場で、ほとんど魚の原価であり手間賃は出ないほど。それでも江戸前の寿司屋は、威光を賭けて初物の新子を競り落とす。捌くのに手間がかかり、酢と塩で締める按配で味が大きく変わることから、仕込みには寿司屋の職人技が問われる。かつて江戸っ子が「女房を質に入れても」と初ガツオに賭けた見栄と誇りと熱狂が、東京の寿司屋のシンコに対する力の入れ方に、今も生き残っているといえよう。
名前の由来
秋祭の寿司に広く使われたことから「祭りで食べる魚」として「鰶」となった。兵庫県姫路市松原八幡神社秋の例大祭では、今もコノシロ寿司がつくられる。江戸時代、大量に獲れ「飯の代わりにする魚」から「飯代魚」。子どもの健康を祈って埋めた風習から「児の代」など諸説ある。昔、下野国の長者のひとり娘が美人だったので、常陸の国司がこの娘を召し上げようとした。しかし娘には恋人があったので、親が「娘は病死した」といってコノシロを焼き、国司はそれを見て、本当に死んだと納得して諦めて帰った。子どもの身代わりとなったことから、「娘の代わり」から「子の代(コノシロ)」の名称となったとする言い伝えがある。コノシロが「この城」に通じることから、また傷むとすぐに腹が切れるから「腹切魚」とされ、武士にとっては忌み魚とされた。切腹の際、最後に出される魚がコノシロであったといわれる。一方で、コハダの粟漬けは、現代でも正月の祝い膳に出される。
成長段階に応じて呼び名が変わる、いわゆる出世魚のひとつ。関東地方では4~5cmまでの幼魚をシンコ、7~10cmぐらいまでがコハダ、13cm程度はナカズミ、15cm以上をコノシロと呼ぶ。その他の地域での若魚の名前として、ツナシ(関西地方)、ハビロ(佐賀県)、ドロクイ、ジャコ(高知県)などがある。
特徴
成魚は全長30cmほどで側扁形(左右に平たい)。口先は丸く小さい。背側は青緑色で腹側は銀白色。背側に小さな黒い斑点が点線状に並び、肩部に大きな黒斑がある。背びれの最後軟条が糸状に伸びる。東アジアの内湾から下降の汽水域に群れで生息する。日本では、東北地方南部以南の西太平洋、日本海南部、東シナ海、南シナ海北部の内湾、汽水域に分布。プランクトンや小型の甲殻類、珪藻などを捕食する。産卵期は初春から初夏。直径1.5mm程度の浮遊卵を産卵する。卵は数日で孵化し、初夏には新子と呼ばれる4cm前後のものが捕れ始める。寿命は約3年ほど。内湾での定着性が比較的強い魚で、春には汽水域近くに大型のコノシロが群れているのを見ることがある。
食材情報
本来8月であったシンコの初荷は、昭和の終わり頃から時期が早まり、近年では6月に初荷を迎えるのが普通である。これは、海水表面温度の上昇による産卵時期の早期化、そして初物を求めるために、産まれて間もない極小の稚魚のシンコまで漁獲するようになったことが原因である。8月上旬の残暑の季節感を愛でるものであったシンコの世界は、今では6月下旬の梅雨の終わりから7月上旬の梅雨明けの季節感を食する世界に変化することとなった。かつて新子の初物といえば、千葉県船橋市で秋に揚がる江戸前物だった。しかし、この数年は、静岡県の舞阪が初物の栄誉を担っている。舞阪と呼んでいるが、実際に漁が行われるのは浜名湖である。浜名湖のコハダは、4月から5月にかけて産卵を始め、約1ヶ月でシンコのサイズに成長する。浜名湖産のシンコは、皮目の柔らかさ、ふっくらとした身肉、しっとりとした甘みと旨みを兼ね備え、最高品として評価されている。最近では、シンコの初物が異常なほど高値で築地に入荷し、キロ8万円をつけたほどである。シンコは、かつて握り一貫に2枚づけから3枚づけが通常であったが、近年の初物のシンコは極小で、握り一貫に8枚から10枚づけのサイズとなっている。しかしシンコの成長は早く、1ヶ月ほどで1枚づけのサイズに成長する。この頃になると、卸値はキロ数百円に下落する。
静岡県浜名湖近くの舞阪で初物が競り落とされた後は、佐賀県有明海、東京湾内湾、三河湾三谷、瀬戸内の福山・徳島・呉・観音寺、大阪湾岸和田、石川県七尾湾などの産地で、それぞれの時期に、コハダが水揚げされる。旬と産地によって脂の乗り具合が変わり、魚の大きさや脂の乗り、季節によって酢締めの仕方も微妙に変化していく。寿司屋の腕の見せどころといわれる。
成魚になると皮が硬くなり、小骨が多くなるので、東京の寿司屋では使用しないことがほとんど。しかし身は旨みが濃く、酢漬けや焼き魚、煮つけで食べられることが多い。内臓に臭みがあるため、醤油ではなく酢味噌で食べられることもある。粟漬け(酢締めに粟をまぶしたもの)は、ナカズミとコノシロを使用する。関東地方を中心に、正月の膳物に出され、祝い魚とされてきた。九州では、コノシロも寿司ネタとされ、有明や八代海沿岸周辺では、背開きしたコノシロに酢飯を詰めた姿寿司が年間を通じて食べられている。関西では、コノシロを塩焼きで食べる。香川県の引田地方の伝承料理には、コノシロの味噌焼きがある。内臓を取ったコノシロを開いて骨切りし、味噌を挟んで焼いた料理である。また大阪のバッテラ寿司は、当初はコノシロの寿司だった。和歌山県御坊市では、熟れ寿司にされる。
晩春から夏にかけて卵を抱いている。肝と一緒に煮つけにすると大変美味である。ママカリの材料となるサッパと外形が似ているが、えらぶたに黒紋があればコノシロ、なければサッパと見分ける。韓国ではコノシロを「ジョノ」といい、釜山から南西部の旧盆には欠かせない食材である。刺身や塩焼き、塩辛に料理する。「ジョノを焼く匂いに惹かれて嫁いだ娘も家に帰る」ということわざがあり、故郷の味とされている。
銀色に光っているもの。目が赤くないもの。腹から傷み出すので、腹が新鮮なものを選ぶ。たんぱく質、ビタミンB2、ビタミンB12、ビタミンD、鉄や銅などのミネラルを豊富に含有する。小骨が多くカルシウムに富む。
市場での評価
初物は毎年キロ数万円で取引されるが、数週間経つと、キロ1000~2000円程度に落ち着く。この数年は、静岡県舞阪産のシンコが初物の栄誉を担い、キロ5万円を超える値がつく。東京湾、三谷、舞阪産のコハダは良質で高額で取引される。七尾湾、瀬戸内産は、量・漁期が変動しやすい。近年は有明海産の漁獲量が最も多く、空輸便で出荷され高値で取引されている。
漁獲法
定置網、刺し網、投網で漁獲される。釣りも人気で、堤防(波止)からサビキ仕掛けで釣ることが多い。
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