マルスダレガイ目バカガイ科
馬鹿貝、青柳、Rediated trough-shell、Surf-clam
生息域:北海道以南
旬時期:11月~3月
調理法:刺身、寿司種、天ぷら、なめろう、さんが、酢味噌和え

アオヤギ(バカガイ)

基本情報

むき身のものを「アオヤギ(青柳)」と呼び、食材としてはこちらの名称の方が一般的である。身と貝柱は分けられて別々に売られる。貝柱は「小柱」または「あられ」と呼ばれ、江戸前の寿司種や天ぷらに欠かせない食材である。かつては一部の地域で大量に獲れたことから価格も安かったが、現在では漁獲量が低下し、その朱色の身の美しさ、たおやかな独特の旨みが評価され、特に大星と呼ばれる小柱の大きなものは高級品として取引されている。

名前の由来

名称の由来には各種の説があり、いつも殻を開けて赤い斧足をだらりと出している様子が、あたかも口を開けて舌を出している馬鹿者に見えることから「馬鹿貝」となったとする説、馬鹿みたいにたくさん獲れたことによって「馬鹿貝」となったとする説などが有力であるが、ほかに潮の満ち引きによって頻繁にすみかを変えることから「場替え」が転訛したとする説、説には殻が薄くて割れやすいため「破家貝」となったとする説、たくさん獲れた地域の名「馬加(まくわり)」(現在の幕張)から「馬加貝」が「バカガイ」になったとする説、殻を開けたまま陸に打ち上げられて鳥に食べられてしまう行動が馬鹿げていることから「馬鹿貝」、あるいは馬鹿者がハマグリと勘違いして喜んだことから、馬鹿が喜ぶ貝で「馬鹿貝」となったとする説などがある。

地方名にアホガイ、アマガイ、ウバガイ、オッゲ、カタノハマグリ、カタハマグリ、カモガイ、キイレゲ、キヌガイ、サクラガイ、シオフキ、シシガイ、シタゲ、バガイ、バカゲ、ミナトガイなどがある。

むき身をアオヤギと呼び、一般的にはこちらの名称が一般的である。これは、かつて江戸時代に寿司職人が「バカガイ」の名前で客に出すことを避けて、当時この貝の一大集散地となっていた千葉県市原市青柳(上総国市原郡青柳)の地名で呼んだことに由来する。ただしアオヤギはあくまでもむき身の状態を指すものであり、貝類としての別名ではない。

特徴

殻長8cm程度、殻高6cm程度。殻の表面はベージュ色で、同心円状の褐色の筋模様が入る。サハリンやオホーツク海などに棲息する北方系のエゾバカガイ型と、南方系のバカガイ型に分かれる。日本では北海道から九州の沿岸に分布する。内湾の水深3~4mの砂底に生息する。産卵期は早春から夏で、北海道では夏から初秋。雌雄一体で、産卵期に近付くと一部の貝が雌に転化する。このときに白っぽい体色が朱色を帯びる。市場に流通している朱色のバカガイは雌に転化した貝である。ただし生育条件によって異なり、砂の粒子の細かい砂場に生息するバカガイは、雌に転化する際に朱色をまとうが、砂の粒子の粗い場所に生息するバカガイや、身肉が白っぽい色をしているものが多い。斧足を使って砂地に潜り、水管を出してプランクトンなどを漉して捕食する。

食材情報

旬は春。バカガイは殻つきで流通することは少なく、むき身のものを「アオヤギ(青柳)」と呼び、食材としてはこちらの名称の方が一般的である。身と貝柱は別々に売られ、価格は貝柱の方が高い。貝柱は「小柱(こばしら)」または「あられ」と呼ばれ、寿司種や天ぷら、酢の物などに使われる。特に小柱のかき揚げは、江戸前天ぷらに欠かせない食材である。大小2つの貝柱があり、大きい貝柱だけを集めたものを「大星」、小さい貝柱だけを集めたものを「小星」と呼ぶ。甘みの中に独特の渋みがあり、特に大星は旨みや香りに優れ、姿も良く、高値をつける高級品となる。斧足の部分のみにされたものは「舌切(したきり)」と呼ばれる。バカガイを味噌たたきにした「なめろう」、これを焼いた「さんが焼き」は千葉県の郷土料理で、現在も富津などで食べられている。産地である千葉では、ほかにもバカガイを茹でてそのまま食べたり、佃煮にしたり、水管に竹串を刺して干した干物など様々な料理法がある。みりん干しにしたものを桜貝という。また愛媛県ではバカガイの干物を姫貝と呼ぶ。殻つきのまま焼いたものも美味とされるが、殻が薄く割れやすいため、殻つきで流通することは少ない。

3~4月に産卵期を迎える前、晩秋頃から3月初旬頃までがバカガイの旨さの旬である。富津、木更津、船橋など東京湾でバカガイ漁を行う漁師は、漁具や漁法が共通することから、アサリ漁を兼ねて行っていることが多い。漁獲量や価格を見ながら、どちらの漁を行うか判断することとなる。2~4月頃までは水温が低く、アサリが砂に潜っているため、バカガイ漁を主に行い、それからアサリ漁に移っていく。むき身は色がきれいな朱色で、形がしっかりとしてつやのあるもの、指ではじいて動くもの、身が痩せていないものを選ぶ。身をまな板などに打ちつけて、身がキュッと締まれば新鮮。殻つきは持って重さのあるものが良い。タンパク質、脂質は少なく、ビタミン類、無機質の鉄、カルシウムなどが豊富。

市場での評価

年間を通じて流通している。千葉県富津のものが有名。関西ではむき身を茹でた状態で売っていることが多い。大型のものはトレイなどに乗せて4個単位で売られている。むき身のものは大きさも揃っていて高価に取引され、殻つきのものは安い。東京湾産は小ぶりで朱色が強く、北海道産は大型で黄色い。舌切はキロ当たり1500~2000円程度。小柱は100g1000円程度。小柱の身が崩れたものは半額以下で取引される。イタヤガイの貝柱が小柱の名前で代替品で売られているが、キロ1000円程度と安い。国内の主な産地は北海道、東京湾、伊勢湾、三河湾、瀬戸内海などである。近年では中国・韓国産のバカガイの輸入が増えている。

漁獲法

主に桁網で漁獲される。かつては千葉県の青柳が一大集散地であったが、現在では千葉県富津市が全国有数の集散地として知られ、全国の産地から集まったバカガイの殻をむき足と柱に分けて出荷している。富津では潜水漁がおこなわれ、潜水夫が数mの海底に潜り、船のポンプからホースで水を送り、その圧力で砂底から貝を舞い上がらせ、バカガイをすくい取る。