スズキ目イボダイ亜目イボダイ科イボダイ属
疣鯛、Japanese butterfish
生息域:東北地方以南
旬時期:秋~冬
調理法:刺身、酢締め、干物、塩焼き、煮つけ、唐揚げ、姿寿司

イボダイ

基本情報

淡泊な白身が人気の大衆魚で、特に干物の原料として人気が高い。身離れが良く、柔らかな白身魚の旨みがある。新鮮なものは刺身や酢締めにするとよい。「ぼうぜの姿寿司」は徳島県の名物。

名前の由来

体側の黒褐色の斑点が、「イボオ」と呼ばれるお灸の跡に見えることに由来する。名前にタイとつくが、マダイなどのタイ科ではなく、イボダイ科に属する。東京では「エボダイ」、関西では「シズ」と呼ばれることが多い。ただし中南米から輸入されているマナガツオ科の魚の和名が「シズ」であることから、注意が必要。ほかの地方名に、アゴナシ(銚子)、アマギ(愛媛県八幡浜)、ウオゼ(京都市)ウボゼ(和歌山県和歌山市)、ギチ(熊本県)、クラゲウオ(兵庫県・広島県)、コタ(鹿児島)、シュス(下関市)、バカ(高知県)、ボウゼ(徳島県)、マメダイ(愛知県)、メダイ(伊豆諸島)、モー(高知県)、モチノウオ(福岡県福岡市)などがある。

特徴

全長30cm程度。銀白色の体は楕円形で側扁し、体高が高い。頭部は丸みを帯び、口は小さい。鰓蓋の上に黒褐色の斑点がある。和名のイボダイは、この斑点を灸の跡(イボオ)に見立てたことに由来する。全身は細かい円鱗に覆われ、側線鱗数は55~65枚に達する。鱗は剥がれやすく、体側には葉脈状の筋説が走り、体表からは粘液が分泌される。イボダイ科の魚は、咽頭部と食道の間に食道嚢と呼ばれる厚い筋肉でできた袋状の器官を持ち、消化を助ける機能があると考えられている。男鹿半島・松島湾以南の日本列島沿岸、朝鮮半島、台湾、東シナ海にかけて、東アジア沿岸の温暖な海域に分布する。特に東シナ海や南日本沿岸で個体数が多い。大陸棚の底層近くで生息するが、夜間になると少し浮上する。産卵期は4~8月で、東シナ海では南部の大陸沿岸に産卵場があると考えられている。直径約1mmの分離浮性卵を産み、孵化した稚魚は海洋表層を遊泳するクラゲ類の触手付近で生活し、外敵から身を守る。成長すると底層に移動する。1年で約13cm、2年で18cm、3年で20cm程度に成長する。肉食性で、クラゲ類、サルパ類、甲殻類など浮遊性・遊泳性の小動物を捕食する。近縁種のバターフィッシュは、腹びれがなく(イボダイは、腹びれがある)、体色がやや桜色を帯びることから区別できる。

食材情報

白身は淡泊で美味。本来は透明感のある白身だが、すぐ白濁する。銀皮は厚みがあるが、熱を通しても硬くならず、骨が軟らかい。新鮮なものは刺身でも食べられる。身は柔らかく甘味と旨みが強い。地方によっては、すだちなどの柑橘類で酢締めにする。鮮度の良い小ぶりのものを三枚に卸し、皮を炙った塩締め炙りは、皮に旨みがあり美味。一般的には塩焼きや唐揚げ、煮つけ、干物、味噌漬け、粕漬けなどに料理される。醤油味で煮つけても身が硬くならず、身離れが良く上品な甘みがある。特に干物の材料として定番で、干すことによって水気が抜け、味わいに深みが増す。ただし本種の干物は高価で、スーパーなどで「エボダイの干物」として売られているものの多くは、北米大西洋で漁獲される近縁種のバターフィッシュという魚である。郷土料理に、骨ごと薄く切り落としたものを骨が柔らかくなるまで酢漬けにした「うぼぜの背ごし」(和歌山県和歌山市雑賀崎)、頭つきで背開きにして酢締めにし、寿司飯を詰めた「ぼうぜの姿造り」、醤油味で煮つけた「ぼうぜの煮つけ」(共に徳島県)などがある。体表の粘液がたくさん残っているものほど新鮮。粘液が多く透明なものを選ぶ。ただしあまり粘液が多いと煮つけに向かない。DHA、EPAなどの不飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸のオレイン酸に富む。ビタミンA、ビタミンB2、鉄、カルシウムをやや多く含有する。魚類の中では最もたんぱく質含有量が少ない。

市場での評価

東シナ海などで水揚げされ、西日本での流通が多い。鮮魚は比較的高値で取引されている。干物は高級品で、一般的にスーパーなどで「イボダイの干物」として流通しているのは、近縁種のバターフィッシュの干物が多い。

漁獲法

底曳き網で主に漁獲される。愛媛県、長崎県、島根県、山口県での水揚げが多い。