サケ目アユ科
鮎、Sweetfish
生息域:北海道以南から日本各地
旬時期:6月~8月
調理法:塩焼き、天ぷら、佃煮、ムニエル

アユ

基本情報

「古事記」、「日本書紀」にも登場し、朝廷に献上された鮎は、古来から日本人に愛されてきた魚のひとつであり、初夏を代表する味覚とされる。川で産卵し稚魚となって海あるいは河口域を回遊し、再び川を遡上する。川ごとに異なる香りや味を持ち、それぞれの解禁を心待ちにするファンも多い。6月になると鮎釣りが解禁され、季節の風物詩となっている。4月頃から稚鮎が出荷され、6月~8月頃に盛りを迎える。現在、市場に流通しているものの多くは養殖物である。

名前の由来

独特の香気をもつことから「香魚」、一年で一生を終えることから「年魚」などとも表記される。現在の「鮎」の表記の由来には、「日本書紀」で神功皇后が釣って戦いの勝敗を占ったとする説が有力である。

特徴

親鮎は秋に川を下り、河川の下流域で産卵を行う。孵化した稚魚は海あるいは河口域に下り、春に川に遡上する。仔魚や稚魚、若魚は、海では主に動物性のプランクトン類などを捕食するが、川を遡上する頃には、歯の形が珪藻類を食べるのに適した櫛形になり、藻類が主食となる。餌の藻類が多い場所を独占して縄張りを持つ習性がある(縄張りに入った鮎を攻撃する習性を利用した釣りが「鮎の友釣り」である)。鮎が藻類を食べた後の底石には、いわゆる「はみあと」が残される。翌年の春に産卵を行ったのち一生を終える「年魚」である。成魚の全長は20cmから30cmに達する。青緑色の体に胸びれ後方の体側に鮮やかな黄色の斑点を持つ。河川に遡上すると、底石に付着する藻類を歯でこそぎ取るようにして食べることから、櫛状の特異な歯と頑丈なあごを持つ。東アジア一帯に分布する。石についた藻類を食べるため、大河よりも岩場の多く瀬の浅い川に生息する。

食材情報

天然鮎を中心に、出回る時期が限られていることから、初夏の代表的な味覚のひとつとされる。梅雨明けから8月の中旬頃から最も美味しいといわれ、初夏の代表的な味覚として人気。6月頃の鮎は「若鮎」と呼ばれ、骨も柔らかく独特の風味が楽しめるが香気には乏しく、8月下旬以降に卵を持ち始めた鮎は「子持ち鮎」と呼ばれ、脂肪を多く含む。「初夏の鮎は香気を、晩夏の鮎は腹子を楽しむ」といわれる。一般的に魚は「割主烹従(かっしゅほうじゅう)」として、刺身で食べるのが最上の食べ方であるとされる。しかし鮎は例外で、塩焼きが最上とされる。一尺(30cm)の高さから塩をする尺塩は塩焼きの肝だが、活け鮎の場合、尾やひれへの化粧塩はしない。これは化粧塩をしなくとも活け鮎は自然にひれが張るためである。

鮎は秋に川で産卵し、海に下り、春になると川に遡上する。幼魚は雑食性だが、成魚は川苔だけを食べるため、川によって味や香りが異なり、それぞれの地域の名物となっている。日田川(大分)、球磨川(熊本)、吉野川(徳島)、四万十川(高知)長良川(岐阜)保津川(京都)、狩野川(静岡)などが有名。ただし現在、市場に流通する多くの鮎は養殖である。一般的に天然の鮎は香気が豊かで、養殖の鮎は脂質を多く含む。独特の香気や内臓の苦みを味わうことのできる塩焼きや天ぷらが人気。洗いや背越しで生食する調理法も人気だが、横川吸虫という寄生虫の中間宿主であるため注意が必要である。酢飯と合わせた鮎寿司、鮎の姿寿司を作る地方もあり、熊本県では、人吉駅の「鮎すし」、新八代駅の「鮎屋三代」が人気である。琵琶湖の鮎は成長しても大きくならない小鮎で、小鮎の山椒炊きは滋賀県名物として有名。

表面にぬめりがあるもの。頭が小さく、身の色や模様がきれいなもの。黄色い斑点が鮮やかなもの。エラが鮮やかな赤色のもの。ヌメリ、ツヤがあるもの。持って見てピンとしたもの。体高が高く、背が盛り上がっているものは脂が乗って美味。腹が破けているものは鮮度が劣化している。養殖物は尾の色や脂びれが黒ずんでいるのに対して、天然物は鮮やかな黄色をしている。

カルシウムを多く含む。内臓はビタミンBが豊富。養殖物の鮎は天然物と比べ約3倍の脂肪を持ち、たんぱく質が少ないが、脂肪が多い分、ビタミンD・Eなど脂溶性の成分に富んでいる。独特の苦みを持つ内臓はビタミンAを多く含有し、鉄・亜鉛・銅などのミネラル、ビタミンB2・B6・B12・ナイアシン・要さん・パントテン酸などのビタミンB群を豊富に含む。

市場での評価

市場に流通する鮎は養殖物が多く、価格は安定している。天然ものは高価で価格が安定しない。近年では活けでの流通も増えている。

漁獲法

刺し網、投網、簗(やな)での漁獲が一般的。縄張りの性質を利用した友釣りも有名。長良川(岐阜)での鵜飼は観光客にも人気である。釣りは、春に海での稚鮎釣りから始まる。川での鮎釣りの解禁は6月。鮎が縄張りを持つ習性を利用した「友釣り」が釣り人に人気。

ブランド

・ハーブ鮎(愛知)
ガーリック・ジンジャー・シナモン・オレガノなど5種類のハーブを飼料に混ぜることによって、霜降りのような身肉とスイカのような香りを持つ。

・若武者あゆ(和歌山)
紀州名産である梅のエキスを飼料に混入している。紀ノ川の伏流水を含む水と地下水を使って養殖している。天然鮎のように黄色の斑点が鮮やかに出ることが特徴。

・すだち鮎(徳島)
徳島県産のすだちでつくられたすだち酢のほか、りんご酢や蜂蜜やビタミン等を飼料に混入している。すだち酢のクエン酸により肉質の良い身となっている。

その他まつわる知識

古来から日本人に愛されてきた鮎は、俳句にもたびたび登場する。「鮎」「鵜飼」は夏の季語。「若鮎」は春、「落ち鮎」は秋の季語。

・鮎はねて跡静かなり夏の川(正岡子規)
・おもしろうてやがてかなしき鵜船かな(松尾芭蕉)

また北大路魯山人は『魯山人の食卓』などの著書でたびたび鮎の味に触れ、「やはり、鮎は、ふつうの塩焼きにして、うっかり食うと火傷するような熱い奴を、ガブッとやるのが香ばしくて最上である。」としている。