ニシン目ニシン科ニシン属
鰊、Herring
生息域:千葉県以北
旬時期:3月~4月
調理法:刺し身、塩焼き、身欠きニシン、酢締め

ニシン

基本情報

酢漬けや塩漬けに加工され、海外でもポピュラーな食材であるニシン。日本では身欠きニシンや昆布巻きとして親しまれ、江戸時代から明治時代にかけて北海道や東北から北前船で日本各地に運ばれ、山間地のたんぱく源としても重宝された。カズノコや子持ち昆布は子孫繁栄の象徴として、現代でも祝い膳に欠かすことのできない食材である。新鮮なものは丸ごと塩焼きにしても、舌触りが良く脂が乗って美味。現在では漁獲量が激減し、市場に出回っているものの多くが輸入物だが、鮮魚などは国産物も流通している。

名前の由来

身を二つに裂いて食用にすることから「二身(にしん)」となったとする説が有力。漢字表記は「鰊」のほか、「鯡」の字が当てられるが、これは松前藩で米の代わりに年貢として納められており「魚に非(あら)ず、米なり」といわれたように魚ではない扱いであったことに由来する。別名で「カド」とも呼ばれるが、東北地方では、産卵のために押し寄せてきたニシンを門口(かどぐち)で、手づかみで獲ることからカドと呼ぶようになったする説がある(口先が角ばっていることに由来するという説もある)。またニシンの卵がカズノコとなるが、これは「カドの子」が「カズノコ」に転訛したといわれる。毎年4月下旬から5月上旬に最上公園で「かど焼きまつり」が開催されている。回遊魚で、春に産卵のために北方の海に現れることから「春告魚」とも呼ばれる。「カド」「カドイワシ」のほか、北海道では「ハナジロ」「ハナグロ」の別名を持つ。「二親魚」「高麗鰯」「青魚」などとも表記される。

特徴

全長35cm。魚体は細長く、腹縁が薄い。下顎は上顎よりやや長い。背側は青黒色、腹側は銀白色。冷水域を好む回遊魚で、北太平洋、北極海、白海、バレンツ海南西部、日本海、黄海北部の渤海湾に分布する。日本では、太平洋側は犬吠埼、日本海側は島根県を南限として、北海道西岸、樺太周辺が主漁場となっている。広範囲の海洋を回遊する群れ(大規模回遊群)と固有の湾内を回遊する地域性の群れ(小規模沿岸回遊群)に分かれる。日本近海で見られるのは、大規模回遊群のものは「北海道サハリン系」(北海道西岸を産卵場とし、オホーツク海から千島列島を経て金華山沖を南下し、三陸沿岸、北海道太平洋沿岸を回遊し、3年で成熟し北海道西岸に戻り産卵する)、「本州系」(岩手県宮古湾などを産卵場とし、噴火湾に回遊する。宮古湾にはもともと地域個体群は存在しなかったが、万石浦からの移植放流種苗によって定着した)、小規模沿岸回遊群のものは、茅部ニシン、石狩湾ニシン、田代島ニシン(厚岸湾・厚岸湖で産卵)、湖沼ニシン(北海道・サハリンの汽水湖、青森県の尾駮沼などで産卵)などがある。回遊魚であるが同じ海域に戻り産卵する性質を持つ(産卵回遊性)。産卵期は日本近海では春から初夏。厚岸湾などでは、早い時には11月、12月に産卵のために沿岸に現れる。水深15m以深の沿岸で、海藻などに直径1.5mm程度の塊状の卵を産みつける。産卵数は数万粒で大型の個体になるほど多い。これが子持ち昆布となる。この卵にオスが放精して対外受精が行われる。この際に海水が白濁する。なお海域で産卵する個体群と汽水湖沼内で産卵を行う個体群が存在する。孵化後、半年で10cm、1年で15cm、2年で22cm、3年で25cm、5年で30cmに成長し、10年で35cm程度にまで成長する。動物性プランクトンやオキアミ類を捕食する。

食材情報

産卵前に脂が乗る冬から、産卵期の春から初夏にかけて旬を迎える。産地の北海道では、新鮮なものが手に入ると、一匹丸ごと塩焼きにする。身が柔らかく舌触りが良く、独特の風味のある脂がしたたり美味である。しかし鮮魚で流通することは少なく、多くの場合は、身欠きニシンや昆布巻き、干物などに加工される。卵巣はカズノコ、産卵後の卵は子持ち昆布として利用される。カズノコは子孫繁栄の象徴として正月料理に欠かせない。輸入物が多いが、国産のカズノコは小粒で黄色が濃く、輸入物よりはるかに値段が高い。輸送技術の発達していなかった時代、内臓をとって乾燥させた身欠きニシンは山間地では重要なたんぱく源であった。福島県会津地方の山間部には、現在でも様々な身欠きニシン料理が残っており、ニシンと山椒を醤油に漬けた「ニシンの山椒漬け」、麹を使って野菜と漬けた「ニシン漬け」などがある。

資源変動の激しい魚で、豊凶が繰り返されてきた。明治時代の終わりには国内漁獲量が100万トンにも達し、「江差の五月は江戸にもない、出船入り船三千隻」と歌われ、北海道や東北では「ニシン御殿」が建つほどだったが、戦後数年で急激に減少し、現在ではカナダやロシア、ノルウェーなどからの輸入物が主である。近年では、国内産のものがやや持ち直しており、礼文や広尾、三陸などから入荷がある。江戸時代には松前藩で漁獲され、米の代わりにニシンが年貢として使われたほか、北前船によって各地に運ばれた。ニシン油は灯火の燃料になったほか、石鹸やグリセリン、火薬の材料としても利用された。脂を絞った滓は肥料や飼料に使われた。

北陸や関西でニシン料理が食べられてきたのは、この北前船の交易によって北海道や東北のニシンが日本各地に運ばれたことによる。加賀では身欠ニシンを使ったニシン寿司、京都ではニシンそば、大阪では昆布巻きと、各地の食文化の中で加工された。京都名物のニシンそばは、京都南座そばの「松葉」で1882年に身欠きニシンの棒煮をそばに乗せたものを売り出したのが発祥である。

ヨーロッパではロールモップと呼ばれるニシンの甘漬けが良く食べられている。またオランダでは、塩味をつけたニシンを生で食べるスウェーデンのシュールストレミングは塩漬けのニシンを缶詰にして缶内発酵させたもので、世界一臭い食品として有名である。

肌が銀色に輝き、腹が切れておらず、鰓に血がにじんでいないものが新鮮。

脂質が多く、DHAやEPAなどの不飽和脂肪酸を豊富に含有する。またビタミンA(レチノール)やビタミンD、ビタミンEなどの脂溶性ビタミンも豊富である。カルシウムや鉄、ビタミンA、ビタミンB2、ビタミンD、ビタミンEなどを豊富に含有する。カズノコはたんぱく質とミネラルに富むが、塩分とコレステロールが高い。

市場での評価

市場に流通しているものは輸入物が圧倒的に多い。アメリカ、カナダ、ロシア、中国などから輸入されている。カズノコや子持ち昆布もほとんど輸入物である。鮮魚は国産物で、北海道の礼文、厚岸、広尾や、宮城県などで水揚げされる。

漁獲法

主に刺網や定置網、巻網漁によって漁獲される。1890年頃から1910年頃まで、富山県から秋田県の沿岸が主漁場だったが、青森県沖から北海道へと次第に北上し、1920年以降は本州日本海側では不漁になり、主に北海道で漁獲されるようになった。明治時代の終わりから大正時代にかけて最盛期には年間漁獲量100万トンにも達するほどだったが、1953年から減少が始まり1955年には5万トンまで激減した。稚魚放流や人工孵化などの資源管理が行われているが、2002年から2011年間の10年間、ニシンの平均水揚量は4000トンにとどまっている。減少の原因として、乱獲や水温上昇のためとする説もあるが、過去400年間に50~80年間の豊漁期間と30~60年間の不漁期間を繰り返してきたとする研究もあり、資源変動が大きい魚とされる。