マルスダレガイ目ザルガイ科
鳥貝、Japanese egg cockle
生息域:陸奥湾以南の日本各地
旬時期:春(太平洋側)、秋(日本海側)
調理法:刺身、寿司種、酢味噌和え、佃煮

トリガイ

基本情報

しなやかな舌触りとシコシコした歯ごたえ、上品な甘みを持ち、江戸前の寿司種に欠かすことのできないトリガイ。漆黒をまとった姿も美しい。色素が落ちやすく、鮮度保持が難しいことから、貝類の中では珍しく、産地で殻をむき湯引きして出荷されることが普通だったが、近年では殻つきの活けの状態で流通することもあり、生鮮とは違った格別の味で高い評価を得ている。東京湾、伊勢湾、三河湾、瀬戸内海などの産地が有名だが、近年では東京湾の水揚げは減っており、愛知県知多半島や京都・丹後のものの評価が高い。

名前の由来

食用とする足の部分が鳥のクチバシのような形状をしていることに由来する。また食味が鶏肉に似ているためとする説もある。千葉県船橋では小ぶりのトリガイを殻つきのまま茹でて食べることがあり、これを「とんぼ」という。

特徴

殻の形は円形に近く、殻長、殻高ともに8~9cmになる。内湾の水深10~30mぐらいの泥底に生息する。殻は薄くて壊れやすい。殻頂付近には紅班があるが、ほかは淡黄色。殻の表面に40~50本の溝があり、殻皮が毛のように密生している。足は長く紫黒色で、普段は貝殻の中に折りたたまれているが、ヒトデなどの外敵が近づくと、足を利用して飛び跳ねて逃げる。雌雄同体で、産卵期は春秋の2回。プランクトンを捕食する。成長は早く、1年で7~8cmになる。寿命は多くの場合1年程度。低酸素には抵抗力が弱い。北海道を除く日本、朝鮮半島、中国沿岸に分布し、国内での主産地は、東京湾、三河湾、伊勢湾、瀬戸内海、京都・丹後など。時として大発生を起こしたり、貧酸素などで大量死することがあり、豊凶が著しい。

食材情報

トリガイは刺身で食べるのが一番。寿司種としても欠かせない高級貝のひとつ。しなやかな歯触りとシコシコした歯ごたえが特徴で、さっぱりとしながらも芳醇な甘味がある。足、別名オハグロと呼ばれる部分が食用となる。これを二等辺三角形状に開いたものを湯通しし、刺身や寿司種などに使用する。足の黒い色素がとれやすいため、寿司職人などはまな板を使わず、ガラス板の上で開く。酢の物や酢味噌和えにしてもよく、また千葉では、小ぶりのものを殻つきのまま甘辛く煮つけたり、佃煮にする。炙ったり、バター焼きにして食べることもある。香川県・観音寺など、漁の盛んな地域ではヒモの部分も店頭に並ぶことがある。軽くゆがいて、天ぷらやわけぎ和えにする。

トリガイは毎年3月頃に漁が解禁される。かつては東京湾の千葉県富津のものが良品とされたが、近年では不漁が続いている。伊勢湾、知多半島、三河湾などから入荷する。黒の色素が落ちやすく鮮度保持が難しいことから、貝類の中では例外的に、産地で殻むきされ湯通ししたものがプラスチックケースに並べられて流通している。湯引きしたものは、冷凍してもそれほど味が落ちないため、年中出回っている。数は少ないながらも殻つきの活けの状況で流通するようになったのは1990年前後以降で、愛知県知多半島美浜の美浜漁協の美浜商会が始めた。昼漁のトリガイを海水と共に発泡スチロールの箱に梱包して出荷する。殻つきのものは高価に取引される。また浅場のものよりも、水深6~7mくらいのところで砂場と泥場の間に生息しているものは、雨や川水の流入に影響を受けにくく、プランクトンも豊富であるため良品とされる。

前年の春から夏に産卵されたトリガイは「春貝」と呼ばれ、前々年の夏から秋に産卵されたものは「秋貝」と呼ばれる。春貝は柔らかく甘みが強く、秋貝はサイズが大きく身も厚いが、やや身(足)が硬くなり、春貝のような上品な甘みがない。舞鶴・宮津・若狭・能登・島根など日本海側でとれるトリガイは秋貝である。

・「丹後とり貝」
大型の天然トリガイの漁場であった京都・丹後の舞鶴湾・栗田湾・宮津湾。しかし年によってはまったく漁獲できないなど、豊凶の差が非常に激しいことから、大型のトリガイを安定的に供給するため、全国に先駆けて養殖に取り組んできた。京都府立海洋センターが、稚貝を人工孵化させ、アンスラサイトという砂状の粒(石炭の一種)が入ったコンテナに入れ、海中に吊り下げて育成する方法を開発。天敵のタコやヒトデから守られて育てられたトリガイは、天然ものより大きく育ち、安定した供給が可能となった。こうして養殖したトリガイの内、全重量100g以上のものを「丹後とり貝」としてブランド化し、高い評価を得ている。市場に流通するトリガイは通常、殻長5~6cm程度であるのに対し、「丹後トリガイ」は殻長8~10cm程度である。

肉厚でつやが良く、開いた部分が大きく、黒紫色の濃いものが良品。湯通しした状態では足先がピンとして茶褐色の光沢があるものが良い。

水分が身(足)の8割近くを占め、次いでたんぱく質、炭水化物、灰分となる。脂質は1%にも満たず、高たんぱく低脂肪のヘルシー食材である。ビタミンB1、カルシウム、鉄分、カリウム、亜鉛も豊富である。

市場での評価

消化管に泥があり、また色素が落ちやすく鮮度保持が難しいことから、産地で殻をむき湯通しして「たて」と呼ばれる半透明なプラステックの皿に乗った状態で市場に入ってくるのが一般的。殻つきの活けの状態のものは、味も良く、寿司屋などに珍重され高値で取引される。二枚貝の中ではやや高価。厚みがあり、色の黒いものが良品とされる。旬は太平洋側では春、日本海側では夏から秋。伊勢湾や三河湾や瀬戸内海、京都・丹後などからの入荷が多い。日本海産は大型のものが多いが、流通量は少ない。豊凶の差が激しい貝だが、総じて高級食材として高価で取引される。冷凍してもあまり食味が変わらないため、ほぼ通年出回る。最近では韓国・中国などから冷凍品の輸入も増えており、回転寿司などで使われている。

漁獲法

ケタ漁といわれる底引き網で漁獲される。