ニシン目ニシン科マイワシ属
真鰯、Sardine
生息域:沖縄を除く日本全国
旬時期:8月~10月
調理法:刺身、なめろう、塩焼き、天ぷら、フライ、煮物、つみれ、オイル漬け、マリネ

イワシ

基本情報

日本人になじみの深い青魚の代表格。うまくて安くて体にいいと、三拍子揃った魚で、ヘルシーな食品としても脚光を浴びている。通常イワシといえば、ニシン科のマイワシとウルメイワシ、カタクチイワシ科のカタクチイワシを指す。日本の食用の歴史は長く、貝塚からも発見されている。稚魚はシラス、タタミイワシに、幼魚以上は刺身、塩焼き、干物、つみれなど様々に利用され、旨みの強さから魚醤やアンチョビにも加工されてきた。かつて日本の総漁獲量の3割を占めていたほどたくさん獲れ、安価な魚の代表だったが、1988年の漁獲量448万トンをピークに漁獲量は激減し、2001年は約17万トンだった。豊漁不漁の周期があり、数十年周期で増減を繰り返している。魚偏に弱いと書くように、イワシは弱い魚で、鮮度も極めて落ちやすい。体が青く輝き、目が澄んでいれば新鮮。イワシは日本中でとれるため、旬は地域と種類によって異なる。時期にはこだわらず、太って脂が乗っているものを選ぶといい。

名前の由来

陸に揚げるとすぐに弱って腐りやすいこと、ほかの魚に捕食されることから「弱し(よわし)」が転訛したという説。大量に獲れたことから高級魚ではない意で「卑し(いやし)」に由来するなど諸説がある。「鰯」は国字で、長屋王邸宅跡から出土した木簡に記されているのが最も古い使用とされる。

特徴

暖海の沿岸から沖合の表層で、群れで行動する回遊魚。2月から5月頃に産卵する。産卵数は3万から5万粒。孵化直後は2mm程度で、半年で6cm前後、1年で10cm前後、2~3年で20~30cm前後に成長する。幼魚までは動物プランクトンを主に食べるが、成魚になると、えらのろ過器官が発達するため、植物プランクトンも食べるようになる。成魚の全長は30cmに達する。体側に7つ程度の黒点がある(「七つ星」と呼ばれる)。鱗がはがれやすく、漁で網にかかった際、互いにこすれ合い、ほとんどがはがれ落ちてしまうため、流通される際には鱗がほとんど残っていない。ほぼ通年産卵しているが、盛期は初春である。青森県以南で漁獲されていたが、近年では、水温上昇に伴って北海道でも漁獲されるようになった。アジと同様、資源変動の大きい魚種である。近年の漁獲量減少の原因として、1988年の捕鯨停止による鯨の増加を揚げる意見が挙げられるが、捕鯨禁止以前にも、ほぼ50年周期で漁獲量が増減しており、明確な因果関係は認められないとされる。マイワシが増えるとカタクチイワシが減り、マイワシが減るとカタクチイワシが増えるといわれる。

食材情報

古来から庶民に愛されてきた大衆魚。地引網では銚子や九十九里浜で大量に水揚げされた。千葉・九十九里浜では「イワシほど重宝なものはなかりけり 煮てよし 焼いてよし 生でよし」といわれる。食用としてだけではなく、農作物の肥料や家畜、養殖魚の飼料としても使用されたきた。干鰯(ほしか)や〆粕(しめかす)は「金肥(きんぴ)」と呼ばれ、綿花や菜種の肥料として使われた。刺身や塩焼きのほか、各地で郷土料理として愛されている。味噌や薬味と叩いた漁師料理「なめろう」(千葉県外房など)、「たたき」(千葉県白子町)、塩漬けしたマイワシを白飯と漬け込んだ熟れ寿司「くさり寿司」(千葉県九十九里)、米糠(こんか)に漬け込んだ能登半島の「こんか漬け」(石川県輪島市)、「イワシの塩いり」(石川県金沢市)、酢漬けしたマイワシの腹におからを詰めた「おから寿司」(石川県輪島市)、「ぬか味噌炊き」(福岡県北九州市)、新鮮なイワシに明太子を挟み込んだ「明太イワシ」(福岡県福岡市、戦後つくられるようになった明太子の漬け汁の余りにイワシを漬け込んだことに由来するとされる)、「ちりなべ」(福岡県福岡市・北九州市)など、全国に多彩なイワシの料理文化が発展してきた。煮干し(いりこ)はカタクチイワシを原料とし、九州の家庭ではいりこ出汁を使った味噌汁が一般的である。

旨みが強いことから、魚醤やアンチョビに加工される。古代ローマで使われていた魚醤「ガルム」は、イワシを原料としていた。イタリア南部アマルフィ周辺では、古代ローマから伝わるカタクチイワシの魚醤「コラトゥーラ」が今も製造されている。日本の石川県輪島周辺で伝統的に製造される魚醤「いしる」も、イワシを原料とするものである。

しらすはウナギ、ニシン目の魚などの稚魚の総称であるが、食料品としては「しらす干し」「ちりめん」などのイワシ類の稚魚のことをいう。その「しらす」でいちばん多いのがカタクチイワシ、次にマイワシ。ときにウルメイワシの稚魚も使われるが少ない。マイワシが少ないのは産卵孵化後、稚魚が広域に分散する性質があるため。

えらが鮮紅色のもの。体が黄色がかったもの、目の赤いものは避ける。全体に銀色で光っているもの。ヌメリのあるもの。太って丸みを帯びたものは脂が乗って美味。「7つ星」とよばれる体側の7つ程度の反転がはっきりしているもの。腹太のものは脂乗りが良い。産卵期直後の脂肪含有量は2%。産卵後、体力が回復すると16%にもなる。

青背魚の代表。アミノ酸バランスのいい良質のたんぱく質も豊富だが、注目すべきは脂肪の量と質。脂肪を約14%も含み、魚の中では高エネルギー。酸化されにくい飽和脂肪酸、動脈硬化を予防するとされる一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸を豊富に含む。カルシウムや鉄も豊富で、カルシウムの吸収を促進するビタミンDも含まれていることから、成長期の子供にも良い。丸干しやめざしなどの干物は骨ごと食べられるため、カルシウムの摂取量がさらに多くなる。

漁獲法

主に巻き網、定置網、きんちゃく網。防波堤からサビキ釣りで狙うものが人気。相模湾などでは春先にサビキ仕掛けで船釣りも行われる。

国内の主な陸揚げ漁港(2002年度)
・第1位 - 銚子漁港(千葉県銚子市)
・第2位 - 波崎漁港(茨城県神栖市)
・第3位 - 飯岡漁港(千葉県旭市)
・第4位 - 片貝漁港(千葉県九十九里町)
・第5位 - 大津漁港(茨城県北茨城市)

ブランド

・氷見イワシ
漁獲された直後の鮮度の良いイワシを加工した氷見の干鰯は、風味や色艶が良く、逸品として知られる。塩干しのほかに、みりん干し(桜干し)、小糠に漬けられたコヌカ漬け、煮干しなどにも加工される。