スズキ目スズキ亜目
ホタルジャコ科アカムツ属
赤睦、喉黒、Blackthroat seaperch
生息域:福島、新潟以南
旬時期:9月~3月
調理法:刺身、塩焼き、煮つけ、干物

アカムツ

基本情報

体が赤く正式名称は「アカムツ」という名だが、口の中が黒いことから、日本海側では山形県以西、太平洋側では九州の一部地域で「ノドグロ」の別名を持つ。近年では「ノドグロ」の名称が全国区になり、高級魚として珍重されている。「白身のトロ」ともいわれ、旨みが濃く上品な旨さを持つ。煮つけや焼きものも美味しいが、極めつけは刺身。むっちりして甘く、皮下脂肪をたっぷりと蓄えた身は、とろけるような味わいを持つ。皮の部分を湯引きで仕立てる「松笠造り」も美味。焼いたノドグロのなめらかな質感も格別である。北陸・山陰地方では特に人気が高い。スズキ目ムツ科のムツとは別種。秋から冬にかけて旬だが、水揚げは通年あり、季節を問わずに脂が乗っている。

名前の由来

和名のアカムツは赤い色をしたムツの意からきている。「ムツ」は脂っこいことを指す「むつっこい」が由来。関東地方ではアカムツ、日本海沿岸ではノドグロまたはノドクロと呼ばれるが、口を開けて中を除くと喉が黒色をしていることに由来。人気上昇に伴って、最近では関東地方でもノドグロと呼ばれることが多い。島根県ではメッキンと呼ばれる。別名にアカウオ、ギョウスン、キンギョ、キンギョウオ、キンメ、ダンジュウロ、トラハツメ、メブト。

特徴

全長40cm前後になる。体型は楕円形で側偏する。背が赤く、腹側は銀白色だが赤身を帯びる。口を開けて中をのぞくと喉が黒色。ムツと違ってアカムツには両顎に犬歯がない。水深100 - 200mの主に砂底に生息し、甲殻類、イカなどを捕食する。産卵期は6月から10月。日本では福島県・新潟県以南から九州に分布する。

食材情報

「東のキチジ(キンキ)、西のアカムツ(ノドグロ)」といわれ、白身ながら濃厚な旨味で口の中で脂がとろける味わい。成長が遅く漁獲量も限られていることから、高級魚として知られ、キロあたり2000円以上、釣りで大型なら1万円を超えることも珍しくなく、「赤いダイヤモンド」ともいわれる。大きいものでは40cmほどになるが、20~30cmのものもよく流通している。

島根県浜田市では、ノドグロを市の魚に選定している。「浜田市水産物ブランド化戦略会議」に加盟の沖合底引き船によって8月から翌年5月までに漁獲された80g以上の新鮮なノドグロを「どんちっちノドグロ」としてブランド化。海域には脂質に富んだ甲殻類、プランクトン等が多数生息していて、それらを栄養源として成長するために美味。特に8月中旬から漁獲されるノドグロの脂質含有量が豊富で、美味しい。島根県では、沖合底びき網、小型底引き網、はえ縄、釣、刺し網といった様々な方法でノドグロを漁獲しているが、大部分は底びき網。隠岐島周辺から対馬にかけての日本海南西海域の大陸棚は好漁場で、特に8~10月頃には中・大型のノドグロが島根県内の主要な市場で多く水揚げされる。長崎県対馬では「紅瞳」というブランド名をつけて売り出している。

2014年、全米オープンテニスで準優勝という快挙を成し遂げた錦織圭選手が、帰国後のインタビューで「食事が楽しみ。お魚が好きなのでノドグロとかあったら食べたい」と語ったことが話題になった(錦織選手は島根県出身である)。一般的に魚の選び方として、色つやの良いものを選ぶが、ノドグロの場合はそうではない。天然礁で漁獲されたものは鱗がしっかりついていて色つやが良いが、脂の乗りが今ひとつ。底びき網によって泥場で漁獲されたノドグロは、鱗がはげて白っぽく、一見鮮度が悪く見えるが、脂が乗って美味。泥場には、天然礁よりも餌となる甲殻類が豊富なため、ここで育つノドグロは皮下脂肪をたっぷり蓄えているためである。島根の漁師は「ノドグロは泥場のものに限る」という。

刺身や煮つけ、焼き魚が人気だが、干物もよくつくられる。島根県浜田市や石川県金沢市では土産物としても人気である。25cmほどのもので2000円前後と、干物の王様といえそうである。また日本海各地では、ノドグロご飯というものがあり、これはノドグロをまるごとご飯に炊き込む豪快な料理である。新潟県などでは、味噌をつけて焼いた味噌焼き、静岡県賀茂村では、卵や肝の煮つけ、皮の唐揚げ、アラ汁がつくられている。

秋から冬が旬とされるが、産卵前の7~8月を最上とするものもある。刺身ならば初夏から夏、塩焼きや鍋なら冬が旨い。子持ちの煮つけは7~9月頃が良い。触ってみて硬いもの。目が澄んでいるものを選ぶ。

栄養価としては、DHA、EPA、ビタミンA、B1、B2、カリウム、カルシウムを豊富に含有する。水深100 ~200mの主に砂底に生息し、底曳き網、釣りで漁獲される。

その他まつわる知識(島根県HPより)

島根県では大きいものは「ノドグロ」、小型のものは「メッキン」とか「メキン」と使い分けて呼んでいますが、「ノドグロ」という呼び名は日本海側では山形県以西、太平洋側・九州の一部で使われているようです。一般に高級魚といえば、マダイ、ヒラメ、トラフグなどを想像されると思いますが、島根県ではアカムツを外すわけにはいきません。スーパーなどでは全長20cm以上にもなると一尾1,000円を超えることは当たり前、盆、正月ともなると2,000円以上の値段になり、なかなか手が届かない高嶺の花と言える魚であります。

島根県では底びき網、はえ縄、釣、刺し網で漁獲されますが、そのほとんどは底びき網によるものです。最近では大きいものでせいぜい全長35cm程度ですが、はえ縄が盛んな平田市小伊津町佐香地区では15年前頃までは全長50cmに達するような巨大なアカムツも漁獲されており、当時、市場調査を行った担当者は一見アカムツとは思われず、口の中を確認したぐらいです。ところで、隠岐島周辺から対馬にわたる日本海南西海域の大陸棚はアカムツの好漁場で、8〜10月頃には中・大型のものが、冬から春にかけては小型のものが多く漁獲されます。この海域では、昭和35〜45年頃は1,500トン以上の漁獲がありましたが、現在は漁船数が減少したため、当時の1/10にも満たない110トン前後の水揚げしかありません。しかし、平成12年には島根県だけで約530トン、山口県との水揚げを合わせると約25年ぶりに1,000トンの大台を越える水揚げがありました。これは8〜10月にかけて全長16cm前後のものが多く漁獲されたためであり、卓越年級群(p.194)が発生したことによると考えられます。

食材として、赤身魚でトロといえばマグロですが、アカムツの場合、白身魚のトロと言えるのではないでしょうか。季節を問わず脂の乗りが良く、いつ食べても旨いと食通に絶賛されています。一般には煮付け、焼きものにしますが、極めつけは刺身、特にカツオのタタキのように皮の部分をあぶった刺身は最高です。一口食べれば誰しも唸ってしまうほどの美味しさです。また小型のものは南蛮漬けにするほか、開いて味醂干しにされます。この味醂干しアカムツを桜の花の様につなぎ合わせたものを「桜干し」と言い、浜田の隠れた名産品です。

またアカムツの握りは絶品で、浜田では一部の寿司屋でしか食べることができません。ところが、浜田では昭和30年代までアカムツはあまり売れない魚で、浜では漁師さんが煮たり、焼いたり、時には丸ごと釜に入れ、「のどぐろ御飯」にして食べていたそうです。

一般に魚の選び方として、色・艶の良いものを選びます。しかし、アカムツの場合、天然礁(漁師さんは瀬という)で漁獲されたものは鱗がしっかりついており、色・艶とも申し分ないのですが、脂の乗りが今一つといわれます。一方、底びき網によって泥場で漁獲されたアカムツは鱗がはげ、白っぽくなっており、見た目に鮮度が悪いのかなと思ってしまうのですが、実は皮下脂肪が多いがために白っぽく見えるのであって、決して鮮度が悪いわけではありません。漁師さんに言わせれば「ノドグロは泥場のものに限る」とのこと。アカムツを選ぶ時は色・艶だけでなく、その辺りにも注意して買い求めてください。