フグ目フグ科
虎河豚、Japanese pufferfish
生息域:日本各地
旬時期:天然ものは12月~2月
調理法:刺身、鍋物、焼き物、唐揚げ、一夜干し、ひれ酒

トラフグ

基本情報

縄文時代の貝塚からもフグの骨が出土しており、古来から日本人を魅了し続けてきたフグ。とりわけトラフグは、フグ類の中でも最も美味とされる。飴色の白身肉は淡泊ながらも玄妙な味わい。フグ刺し(てっさ)とちり鍋(てっちり)は代表的なフグ料理で、冬の風物詩となっている。「フグは食いたし、命は惜しし」といわれたように、非常に美味な魚だが、猛毒を持つことでも有名。

名前の由来

かつては「フク」と呼ばれていた。名称の由来には諸説あり、怒ると体を膨らませることから「フクるる」に由来するという説、胃の一部に水を飲み込み水を吹き出して砂中の餌をあさることから「吹く」に由来するという説などがある。「河豚」の漢字表記は、河(汽水域)にいる豚のような魚の意。地方名に、イカフグ(富山県)、トミ(千葉県)、テッポウ(大阪、当たると死んでしまうことから)、マフグ(広島県)、キタマクラ(高知県)、クロモンフグ(大分県)、ブッキン(熊本県)などがある。

特徴

全長75cm程度。体表は小さな棘におおわれている。背面は黒く黒斑があり、腹面は白い。胸びれ後方に白く縁取られた大きな黒色斑紋がある。尻びれは白い。太平洋北西部、日本海西部、黄海、東シナ海などに分布し、国内では北海道室蘭が北限。水深200m以浅に生息する。産卵期は3~6月。潮流の速い湾口部や多島海で産卵する。国内では九州西岸、関門海峡、瀬戸内海、伊勢湾、日本海沿岸などが産卵場として知られている。雌は産卵後、産卵場を離れるが、雄は次の産卵行動のため産卵場にとどまる。直径1.2~1.4mm程度の球形の卵は沈性で、砂中に浅く埋まっている。幼魚はない湾の砂泥底で過ごし、1歳を過ぎると外界に移動する。1年で全長25cm、3年で40cm、5年で50cm、8年で60cm程度に成長する。天敵に合うと内臓の膨張嚢を膨らませることによって体を膨張して相手を威嚇する。フグ科の魚類は世界中で約160種が知られており、日本近海には50種あまりが分布している。

食材情報

フグ類の中でも最も美味とされ、最も高値で取引される。飴色の身は香り高く甘みと歯ごたえがある。刺身(てっさ)や鍋物(てっちり)のほか、焼きフグ、唐揚げなど様々に料理される。白子(精巣)はクリームのようにトロリとして、濃厚でありながら上品な旨みを持ち、焼き物、蒸し物にして良い。皮は刺身に添えるほか、煮こごりにして美味。ひれを干して炙ったものに熱燗を注いだひれ酒もこたえられない味。また白子を裏ごして熱燗と合わせた白子酒も贅沢な味。口まわりの皮肉を天日干ししたものはウグイスと呼ばれる珍味。

「フグは食いたし、命は惜しし」といわれたように、非常に美味な魚であるが、猛毒を持つことでも有名。テトロドトキシンと呼ばれる猛毒成分が含まれ、特に卵巣と肝臓は強毒。そのため食用となる種類と部位が厚生労働省によって定められ、取扱には都道府県条例で様々な規制が設けられている。たとえば東京都では、条例によって、ふぐ調理師やふぐ取扱所などについて細かな規制を定めている。ふぐ調理師は条例に基づき都道府県知事が行うふぐ調理師試験において免許を取得した者である(自治体によってふぐ取扱者、ふぐ処理師、ふぐ取扱登録者、ふぐ調理者などと呼び名が異なる)。

豊臣秀吉の時代に公布されたフグ食禁止令は明治に入っても続いていたが、初代総理に就任した伊藤博文が山口県下関市の春帆楼でフグを食べ、あまりに美味だったことから、明治21年に山口県のフグ食を解禁した。春帆楼は今でも下関の名料亭として知られるほか、下関市にはフグ料理店が多い。

脂肪含有量は1%以下で、高たんぱく質・超低脂肪の白身魚。たんぱく質には、旨み成分であるイノシン酸、グリシン、リジンなどのアミノ酸が豊富に含まれており、フグ特有の旨みを構成する。皮にはコラーゲンが豊富に含まれる。

市場での評価

養殖物をはじめ流通量は多い。大型の天然ものが最も高値で取引される。養殖ものは高価だが価格・供給量共に安定している。

ブランド

山口県下関がなんといっても有名で、日本各地のフグが集散地である下関に集められるが、最近では、独自ブランド化も推進されている。福岡県宗像市の漁港の「玄海とらふぐ」などブランド化の試みが始まっている。

漁獲法

主産地は西日本。山口県下関市がフグの本場として知られるが、下関は産地というよりも集散地である。天然もの、養殖ものともに、日本全国のみならず海外からフグが下関に集められる。これは、明治時代に全国で初めてフグ食が解禁になったのが下関であったこと、猛毒があるため水揚げ後の加工が重要だが、加工業者が下関に集積していること、結果として下関がブランドとなり、水揚げすることで高値がつくことが原因である。

トラフグの畜養は1933年に山口県で開始されたが、完全養殖が可能になったのは、1960年に人工孵化飼育が成功してからである。1991年には水産庁によるトラフグ養殖推進の方針が打ち出され、ハマチやマダイの養殖業者がトラフグ養殖に転換し、生産量が増加した。現在では各地で人工種苗による養殖が行われており、ブリ、サケ、マダイ、ヒラメに続いて収穫量の多い養殖魚である。養殖もののトラフグは天然ものに比べて尾びれが短く、全体的に黄色を帯びている。

2008年の国内県別漁獲量は以下の通りである。

・天然
1 福岡 545トン
2 山口 498トン
3 島根 481トン
4 長崎 366トン
5 愛媛 341トン
6 石川 339トン
7 香川 274トン
8 愛知 259トン
9 富山 211トン
10 三重 199トン

・養殖
1 長崎 2,496トン
2 熊本 554トン
3 香川 183トン
4 兵庫 152トン
5 福井 120トン
6 佐賀 114トン
7 山口 83トン
8 鹿児島 15トン
9 三重 1トン

2002年には初めてフグの輸入量が国内生産量を上回り、1万5600トンとなった。この内99%は中国からの輸入であり、残りは韓国である。トラフグをはじめ、カラス、シマフグ、マフグ、シロサバフグ、クロサバフグなどのフグ類が輸入されている。トラフグやカラスは活魚、鮮魚あるいは冷凍で輸入されることが多い。トラフグは刺身や鍋、唐揚げなど、国産のものと同じように利用されている。