古腹足目ミミガイ科
鮑、鰒、蚫、Abalone
生息域:房総半島~九州
旬時期:5月~9月
調理法:刺身、酒蒸し、殻焼き(残酷焼き)、煮貝、水貝

クロアワビ

基本情報

世界中でおよそ100種類ほどあるミミガイ科の貝の内、大型で食用にされるものをアワビという。このうち、日本ではメガイアワビ、クロアワビ、マダカアワビ、エゾアワビの4種が食用にされる。クロアワビはアワビの中でも高級品とされるが、近年では漁獲量が減少。現在、クロアワビとして出回っているものは、本来、北海道で獲れるエゾアワビを暖流地域に移植したものが多い。有名な生息地は房州で、味、身の締まり共に絶品である。

名前の由来

「アワビ」の名称の由来は、殻が一枚であることから「会わずにわびしい」に由来するとする説、「不合肉(アハヌミ)」が転訛したとする説などがある。クロアワビの別名には、オガイまたはオンガイ(天皇家、伊勢神宮に奉納されることから)、セグロまたはクロガイ(殻が黒いことから)などがある。

特徴

殻長20cm程度。殻は楕円形で、マダカアワビやメガイアワビよりも細長い。表面はでこぼこしている。足の裏が黒っぽく、また足の周りの突起が複雑に枝分かれしている。東アジアでは日本の房総半島から九州、朝鮮半島・中華人民共和国北部の沿岸の水深20cmくらいまでの岩礁に生息する。クロアワビは、アワビ4種の中でも最も浅い場所に生息し、最も足が速い。産卵期は10月中旬~12月下旬頃。殻の上に開いている孔から精子や卵子が海中に放出され、体外受精する。アワビではこの孔が4~5個だが、トコブシでは6 ~8個。孵化して5~7日立つと海底を這い始める。1年で殻長3cm、3年で8cm、5年で13cm程度になる。アワビの殻は、殻の内側から層が成長して厚くなっていく。ワカメやコンブなどの褐藻類を捕食する。夜行性で、日中は岩の間や砂底に潜っている。雌雄の判別は外見からは難しく、生殖腺が緑色のものが雌、白っぽいものが雄。

食材情報

日本で食用とされるアワビ4種のうち、生食で旨いのはクロアワビとエゾアワビ。とりわけクロアワビは高級品として評価が高い。身は硬くしこっとした歯触りがあり、噛むほどに磯の香りのする甘みと旨みが広がる。三浦半島、伊豆半島、静岡県御前崎、和歌山県大王崎、紀伊半島、淡路島、長崎県五島列島などが産地として有名だが、中でも房州が名産地で、外房のクロアワビは味、身の締まり共に絶品とされる。肝もねっとりとして甘みがある。アワビは必ず活けのものを使う。クロアワビは5月から9月中旬頃が旬。9月中旬から10月上旬にかけて各漁協は禁漁期に入っていく。刺身や寿司種として人気があり、冷たい水に浮かべた水貝は夏の和食に涼を呼ぶ贅沢な一品である。生食のほか、塩蒸しや酒蒸し、殻焼き(残酷焼き)、煮貝、バター焼きなどにしても美味。アワビを丸ごと醤油味で煮たアワビの煮貝は山梨県の名産品。また伊勢せきやの「参宮あわび」も土産品として有名。

贈答品の印に使う「のし」は、アワビの肉を外側から薄く剥いだものを乾燥させた「熨斗(のし)アワビ」が使われていた。時代の変遷と共に、「のし」は紙で代用されるようになったが、神宮に奉納する「熨斗アワビ」をつくる神宮司庁所管の御料鰒調整所が三重県鳥羽市国崎にあり、今も熨斗アワビがつくられている。神話で倭姫(やまとひめ)が国崎に訪れた際に海女から贈られたアワビを喜んだという倭姫伝説に基づくもので、国崎の海女によって採られたアワビを伊勢神宮に神饌として奉納するしきたりが今日も続いている。

アワビは活けのものを使う。身肉が殻からはみ出しているような、たっぷりと太った800gくらいのものが良い。8割以上が水分。脂肪はわずか。鉄と銅、マグネシウムのほか、ビタミンB1、ビタミンKを比較的多く含む。

ブランド

・房州黒あわび
東安房漁業協同組合が認定するもので、市場でも最高級品の呼び声が高い。房州のクロアワビは古くは奈良時代の木簡にもその名が残されている。しっかりとした歯ごたえと、濃厚な旨みがあり、刺身にして絶品。肝もねっとりとして甘い。漁期は5月1日~9月15日。
12cm超の大きさのものが多い。

・三重県のアワビ(三重ブランド)
三重県ではクロアワビ、メガイアワビ、マダカアワビの3種が水揚げされる。伊勢・志摩が主な漁場で、県のブランドに認定されている。漁期は三重県漁業調整規則により9月15日から12月31日。古くから伊勢神宮への奉納に使われるなどその歴史は古い。国崎などでは種苗放流が行われている。

・輪島海女採りアワビ
輪島市沖合の舳倉島(へぐらじま)や七ツ島(ななつじま)はアワビの漁場として有名で、現在も約200名の海女が潜水漁を行い、夏の風物詩にもなっている。

市場での評価

キロあたり8500~9500円程度。千葉県外房のものが最上品として評価が高い。養殖や放流などが行われているが、需要過多で価格は高値どまりが続いている。

漁獲法

海女による潜水漁法が主に行われている。養殖では各地で種苗放流が行われているほか、京都などでは陸上養殖の取組が進められている。財団法人京都府水産振興事業団京都府栽培漁業センターで病気に強いクロアワビの種苗が生産されるようになり、この種苗を用いた陸上養殖技術が開発され、京丹後市と伊根町でクロアワビが養殖されている。