エビ目イセエビ科イセエビ属
伊勢海老、Japanese spiny lobster
生息域:茨城県~九州
旬時期:9月~3月
調理法:刺身、味噌汁、残酷焼き

イセエビ

基本情報

縁起ものとして祝儀や正月飾りに欠かすことのできないイセエビ。日本各地で古くから食用とされ、鎌倉海老、具足海老などとも呼ばれていた。華やかな姿形を活かした姿造りは旅館や料理屋の名物として提供される。味噌汁や残酷焼きも人気が高い。

名前の由来

伊勢がイセエビの主産地のひとつであったことに加え、磯に多くいることから「イソエビ」が転訛してイセエビになったという説がある。

特徴

体長35cmほど。大きなものでは1kg近くになる。体型は太い円筒形で、とげにおおわれ、全身が暗赤色。エビ類の触角はしなやかに曲がるものが多いが、イセエビの第二触角は太く、頑丈な殻におおわれている。長い各条の第二触角の根元に発音器があり、威嚇音を出す。腹部の背側には短い毛の生えた横溝がある。歩脚は上部で、オスは触角と歩脚が長いが、メスは腹肢が大きく第5脚が鋏脚に変化している。この鋏は腹部に抱く卵の清掃に使われる。

房総半島以南から台湾までの西太平洋沿岸と九州、朝鮮半島南部の沿岸域に分布し、外洋に面した浅い海の岩礁やサンゴ礁に生息する。昼間は岩棚や岩穴の中に潜み、夜になると獲物を探す。食性は肉食性で、貝類やウニなどいろいろな小動物を主に捕食する。貝などは頑丈な臼状の大顎で殻を粉砕して食べる。海藻を食べることもある。ウツボと共生関係にあり、伊勢海老はタコから身を守り、ウツボは捕食対象であるタコを、伊勢海老をオトリにしておびき寄せる。

繁殖期は6~8月で、メスはオスと交尾した後に産卵する。卵は0.5mmほどで、大型個体では60万粒ほどの卵をブドウの房状にして腹脚に抱え、孵化するまでの1~2ヶ月間保護する。孵化した幼生はフィロソーマ幼生と呼ばれる形態で、広葉樹の葉のような透明な体に長い遊泳脚がついている。フィロソーマ幼生は海流に乗って外洋まで運ばれ、プランクトンとして浮遊生活を送る。1年ほどの浮遊生活の後に、体長2cmほどのプエルルス幼生に変態して海底での生活を始める。この幼生はガラス海老とも呼ばれ、体は透明で、も大顎や消化管が一時的に退化し餌をとらない。プエルルス幼生はフィロソーマ幼生の時に蓄えた脂肪をエネルギーにし、脚で水をかいて泳ぎながら沿岸部の岩礁を目指す。岩礁に辿りついたプエルルス幼生は約1週間で脱皮し、親エビと同じ体型の稚エビとなって歩行生活を始める。1年で体長10cm、2年で15cm、3年で18cm程度になるといわれ、体長12cm前後で成熟期を迎える。

食材情報

祝儀や正月飾りに欠かすことのできないイセエビ。太く長い触角を振り立てる様や姿形が鎧をまとった勇猛な武士を連想させることから「威勢がいい」を意味する縁起物として武家に好まれた。地方によっては正月の鏡餅の上に載せるなど、祝い事の飾りつけのほか、神饌としても用いられる。日本各地で古くから食用とされ、鎌倉海老、具足海老などとも呼ばれていた。クルマエビと並んで水産業上の最重要種である。華やかな外観を活かして姿造りにすることが多く、刺身で食べた後の頭部でつくる味噌汁も美味である。残酷焼きは活けのイセエビをそのまま焼くもの。産地である伊勢では丸ごと蒸して食べる。また静岡県下田市須崎の浜料理である「いけんだ煮みそ」は、味噌仕立ての鍋にイセエビやサザエ、磯魚や野菜をどっさり入れて煮込んだ豪華なもの。

伊勢海老の名称がはじめて記された文献は、1566年の「言継卿記であるとされる。江戸時代には、井原西鶴が「日本永代蔵」(「伊勢ゑびの高値」)や『世間胸算用』で、江戸や大阪で諸大名などが初春のご祝儀とするため伊勢海老が高値で取引されていたことを書いている。1697年の「本朝食鑑」には「伊勢蝦鎌倉蝦は海蝦の大なるもの也」と記されており、海老が正月飾りに欠かせないものであると紹介されている。貝原益軒の「大和本草」にも登場する。

生息域沿岸では、イセエビはどこでも重要な水産資源とされている。日本国内での県別漁獲高は千葉県が最も多く、次いで三重県である(イセエビは三重県の県の魚に指定されている)。漁期は秋から春にかけてで、5月から8月の産卵期は、資源保護を目的に禁漁とする地区が多い。産卵期は身が細り、味も落ちる。漁獲量は月齢や天候に左右され、闇夜であれば多く水揚げされる。これは満月には天敵に見つかりやすくなるのであまり動かず、闇夜に活動するためである。

産地は千葉県、静岡県、三重県、和歌山県、長崎県などが多い。高級エビとして取引される。幼生から稚エビまでの飼育に成功しているが、事業化には至っていない。

漁獲法

漁法は主に、刺し網漁と潜水漁、蛸脅し漁がある。刺し網漁は、夕方に刺し網を仕掛け、早朝に網を上げて獲る。潜水漁は、岩場に潜んだイセエビを海女が手づかみで採取するもの。蛸脅し漁は、竿の先にイセエビの天敵のマダコをくくりつけて水中で振り、イセエビが逃げたところを網で捕獲するものである。イセエビは姿造りなどで供されることから、流通時には姿形が厳格に評価される。角と呼ばれる2本の触角や脚が破損すると、商品価値が著しく下がってしまうため、漁獲時には慎重に扱われる。角の折れた海老や小型の海老が市場に出荷されることは少なく、漁港付近の旅館などで消費されることが多い。